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賃貸住宅オーナーは「幸せそう」「いやそうは見えない」違いのカギは利他的行動?

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文/朝倉 継道 イメージ/©tomertu・123RF

他人の幸せのために行動すると…幸せになる?

日本生命グループの調査・研究機関、ニッセイ基礎研究所が、「他人の幸せの為に行動すると、幸せになれるのか?-利他的行動の幸福度への影響の実験による検証」と、題したレポートを公表している。賃貸アパートやマンションに投資し、他人にこれを貸す「賃貸経営」の成功とつながりがあるかもしれない話として、採り上げてみたい。

このレポートでは、利他的行動とは「自分が何らかのコスト(時間、労力、お金など)を負いながら、他者に利益を与える行動」と、定義されている。困っている人や、頑張っている人を助けるための金品の寄付、さらにはボランティアでの援助がおおむねこれに当たるだろう。

ではこの利他的行動によって、それを行う人自身は幸せになれるのか?

その答えを探るため、当レポートでは海外での知見のほか、ニッセイ基礎研究所が行った実験の結果が紹介されている。そのうち、実験は、およそ次のようなかたちで行われている。

1.実験対象者として集めた人々をランダムに3グループに分ける

2.対象者全員の幸福度を測定し、3グループそれぞれの平均値が同程度であることを確認する(=ランダムな振り分けの成功)

3.彼らに、ボーナスポイント(100円相当)が当たるかもしれない「くじ引き」を行ってもらう。ただし、くじの結果は、実はグループごとに以下の3つに分かれ、固定されている

(1)当選~ボーナスポイントがもらえる

(2)寄付~ボーナスポイントを自らはもらえないが、他者に寄付する権利がもらえる。寄付先も選択できる

(3)落選~ボーナスポイントはもらえず、寄付もできない

以上を終えたあと、各参加者の幸福度を測定、分析すると、

・「落選」グループの幸福度は(当然ながら?)もっとも低い
・「当選」グループの幸福度はもちろん高い。しかし、「寄付」グループはそれよりもさらに高い

との結果が出たという。(対象:全国の20~69歳男女 回答数:計1658件)

ポイントを自分のものにできた人たちよりも、誰かに寄付した人たちの方がより幸せを感じているらしい、ということだ。

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賃貸住宅オーナーは利他的行動をとる場面に恵まれている

これを受け、同研究所は、海外での検証なども併せ、

「利他的行動が幸福度を高める可能性を示唆するものである」

と、まとめている。

もっとも、いかがだろう。こうした実験や分析を行わなくとも、われわれはなんとなく普段から分かっているのではないか。

実験や調査を行うことはもちろん大事で必要なことだが、「利他的行動には自らへの幸福感が伴う」ことについては、われわれは多分、多くが日常の実感や人生経験にもとづいてのこととしてそれを知っている。

そのうえで、これを過剰に求めすぎたネガティブな結果として、よく地域の問題となるハトや野良猫へのエサやりといった行動(身近な動物への利他的行動にほかならない)の発生があることを思い出される方も多いに違いない。

ともあれエサやりは措くとしてオーナーは、この利他的行動をとる場面にとても恵まれやすい仕事をしている。

まず、物件の掃除がそれにあたる。自分の家の玄関でもないのに、他人の住む建物のエントランス周辺に一生懸命水を撒き、デッキブラシをかけ、落ち葉や土ぼこりを集めたり、窓もせっせと拭いたりする。物件の庭を丹念に飾る人もいる。入居者の気分を和ませようと、丹精込めて木や花の手入れをする。多少の暑さ寒さもいとわない。駐輪場の自転車がズレて置かれていれば、きれいに整頓をする。あるいは塗料を買ってきて地面に白線を引く。それによって、入居者同士が嫌な思いをさせ合うトラブルも予防される。

およそ管理会社に仕事と判断を丸投げしないかぎり、多くの利他的行動を行うチャンスが、オーナーには年がら年中訪れることになる。

ただしこれらは、いずれも厳密には「顧客」である入居者の利益につながるものだ。なので、オーナーがそれを行うことについては、純粋な利他的行動であるとはいいにくい。要は、客商売のためのサービスといえばサービスである。

しかしながら、管理会社に任せる、あるいは、苦情が出るギリギリまで物件には構わずに放っておくなど、やらずに済ますならばその選択肢もあるという意味においては、オーナーによる物件への“世話”は、ある程度、利他的行動的側面を持つものといえなくもないだろう。

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賃貸住宅オーナーは幸せな人が多い?

以前銀行員を辞め、専業のオーナーへ転身された方に、その思い切った決心の理由をお聞きしたことがある。答えは、

「仕事でお付き合いしたお客様のうち、資産も豊かで、人生が幸せそうに見えた人に、オーナーがとても多かった」

なので、自分もその道をということだった。

一方、東京のある下町の、地場の老舗不動産会社の社長には、こんな話を幾度も聞かされた。

「口を開けばいつも不満だらけ。家族も笑顔がなく、家の中はどんより。資産は有り余っていても、とても幸せそうには見えない人がオーナーには結構いる」

これら、異なる見え方の間に横たわっているものは何か?を考えるとき、そのカギのひとつとして、今回紹介したレポートのテーマとなっている「利他的行動」は、意外に大きな存在になっているのではないかと、常々思っている。

ニッセイ基礎研究所 他人の幸せの為に行動すると、幸せになれるのか?-利他的行動の幸福度への影響の実験による検証

 

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